2018年11月4日:金銭的インセンティブの有効性

こんにちは。
株式会社シグマライズ、社長の斎藤です。

直近、「行動経済学」の本を読んでいます。

人は生きていく上で多くのことを、自分以外の他者に依頼し、お互いに協力をすることで生活をしています。

何か商品を買うというのは、自分が持っているお金を提供することで、何か他の物の提供を受ける行為で、買い手と売り手が協力していると言えます。

仕事は、お金を貰う代わりに自分が持っている専門知識や時間を提供する行為で、雇い主、と雇われ側が協力していると言えます。

もともとお金のある世界に生まれたので、日常生活を送る上で、すべてのモノやサービスをお金(金銭的な価値)に換算して交換をしていくことにあまり不自然を感じませんが、人は自分の行動を選択するときにお金だけに注目して行動を選択するわけではありません。

赤ちゃんは誰からも教えられないのに、自分の周りにあるいろんな物に興味を持ちます。おそらく損得の感情を覚える前段階で、人には知的探求心や新しいことに挑戦したいという気持ちが備わっていて、損得ではない部分で自分が何をするのか決めているだと思います。

自分も含めて、歳を取って大人になると、知的探求心や挑戦心では無くて損得勘定で物事を判断することが多くなるように思います。それは自身の生活や家族の生活が経済的困窮に陥らないように、安全に生活できるようにするために必要なことですが、全部が全部、損得の物差しで物事を判断していくのはなんだか寂しいような気がします。

お金のために嫌な仕事や本来はやりたくないことを我慢しなければならない。と言う人もいるかもしれませんが、そうではなくて仕事自体が知的探求心や挑戦心を満たし、本当にやりたいと思えることが少しでも仕事になる方が良いはずです。

『行動経済学』の本の中に、お金は大事だけれど、お金だけが大事なわけではない。ことが分かる実験、エピソードがいくつか紹介されているので、ご紹介したいと思います。

(引用開始)
大学生にいくつかのパズルを解くように求めた。学生は無作為に二つのグループに分けられた。一つめのグループの学生には、金銭的報酬が支払われ、二つ目のグループには支払われなかった。意外なことに、二つ目のグループの学生には、一つ目のグループを上回る成績を挙げた者たちがいた。お金をもらわなかった学生たちはパズルを解くという知的挑戦を楽しんでいたのに対し、お金をもらった学生たちはその金額が比較的少なかったことで意欲を削がれたのだろう。金銭的報酬が支払われると、学生の意識は作業の知的挑戦を楽しむこと(内発的モチベーション)に向かわず、金銭的報酬が十分か否か(外発的モチベーション)に向けられた。
(引用終了)

同じことをするのであれば、少額であってもインセンティブがあった方が良いと損得勘定だけで考えると思えますが、実際には少額なインセンティブを付けることで、金銭的報酬が十分かどうかに意識が向かってしまい。金銭的報酬が十分でなかった時に意欲がそがれることがあるということです。これを著書ではクラウディングアウト(外発的モチベーションによって内発的モチベーションが阻害されること)と呼んでいます。同様に献血の実験でもクラウディングアウトが起こったケースが書かれています。

(引用開始)
献血の不足には多くの国が頭を悩ませており、経済学者は献血者を増やす新たな方法を模索してきた。経済的な解決策としてわかりやすいのは、献血者にお金を払うことだ。しかし実験的に献血を促すために献血者に金銭的報酬を導入してみたところ、むしろ逆の、予想外の影響があった。報酬は人々の献血への意欲を高めるどころか低下させたのだ。理由として一つ考えられるのは、金銭的報酬という外発的モチベーションによって、良い市民であろうとする献血者の内発的モチベーションが阻害されたということだ。
(引用終了)

これらの実験は人が自身の行動を選択する上で、金銭的報酬以上に重要な要素があることを示す良い例だと思います。

企業経営をしているのであれば、社員のモチベーションを引き出すために金銭的報酬を設定することが本当に有効なのか検討する余地があるのではないでしょうか。

また、個人として誰かに何かを頼もうと思った時に、短絡的に金銭的報酬を提供することが本当に有効なのかを考えてみる必要があるように思えます。

金銭的報酬を設定する前段階で、他者にやってもらいたい行動が個々人が持っている知的探求心や挑戦心、良い社会市民であろうとする気持ちなどの、内発的モチベーションにどのように作用するのかを考えて見ると良いと思います。

また、自分自身にとって、金銭的報酬が無くてもやってみたいと思える仕事や行動にはどういうものがあるのか。一度、損得勘定を抜きにして考えて見ると、より良く生きることができるのではないでしょうか。

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